助成金申請の「無資格代行」に潜む法的リスク【教育訓練機関向け】
リスキリング支援の裏に潜むリスク
近年、国を挙げたリスキリングの推進やDX人材・ドローンパイロットの育成に伴い、民間企業向けの研修や教育訓練校(スクール)の需要が急速に高まっています。その中で、多くのスクールが受講企業の金銭的負担を軽減し、集客を最大化するための強力なツールとして活用しているのが、厚生労働省管轄の「人材開発支援助成金」をはじめとする各種助成金制度です。
「助成金を活用すれば、実質○割負担で高度な技術を習得できます」という提案は、企業にとってもスクールにとっても非常に魅力的なスキームです。しかし、この裏側でいま、教育訓練校が「知らなかった」では済まされない重大な法的リスクに直面しています。
それが、資格を持たない外部のコンサルタントや、スクール自身が主導する助成金申請の「無資格代行(非社労士行為)」です。本コラムでは、各種利用規約や法律が定める明確な根拠を交え、教育訓練校が陥りがちな盲点と、スクールが守るべき正しい運用方法について詳しく解説します。なお、本コラムはドローンスクールを含めたすべての教育訓練校(AI研修など)、これから人材開発支援助成金を活用した人材育成(人材教育)にを検討中の企業様、また、これからリスキリング支援に携わる新人社労士が意図しないトラブルに巻き込まれないことを目的とした記事になります。
無資格代行(非社労士行為)とは?
まず大前提として、厚生労働省が管轄する雇用・労働関連の「助成金」の手続きについて、法律がどのように定めているかを確認しておく必要があります。
【社会保険労務士法 第27条(業務の制限)】
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第1号の3までに掲げる事務を業として行つてはならない。
厚生労働省管轄の雇用・労働関連の助成金において、申請書の作成や手続きを代行できるのは、国家資格を持つ社会保険労務士(社労士)または社会保険労務士法人のみと厳格に定められています。スクール運営において、スタッフが受講企業に代わって申請書類一式を作成したり、無資格のコンサルタント会社が手続きを差配したりする行為は、名目の如何(コンサル料、会費、サポート費など)を問わず、すべて法律違反(社労士法違反)となる違法行為です。
無資格代行は無料ならセーフ?
ここで多くの訓練校が「うちは助成金申請の代行費用を一切もらっていない。受講特典の『無料サポート』としてスタッフが手伝っているだけだから、社労士法違反(無資格代行)にはならない」と主張します。しかし、これは実務上、完全に誤った認識です。
「報酬」の定義
【行政解釈・判例における「報酬」の原則】
手続き自体を「無料」と称していても、その前提として受講企業から「受講料」や「入学金・研修費」という名目で金銭(経済的利益)を得ている場合、申請代行は受講契約に付随するサービスの一部であり、実質的に「報酬を得て業務を行っている」とみなされます。
したがって、名目が「無料」であっても、社会保険労務士法第27条の「報酬を得て」という要件を充足するため、無資格者による代行は違法です。
金額に関わらず「システム規約違反」
【各システム利用規約による制限】
仮に100%ボランティア(完全無償)の申請代行であったとしても、後述する『GビズID利用規約』および『雇用関係助成金ポータル利用規約』に基づき、ログインして操作を行ってよいのは「事業者本人」または「適法に委託を受けた社労士等」のみに限定されています。
金額の有料・無料という問題以前に、訓練校が他人のアカウントを使って申請を主導する行為そのものが、システム上の重大な規約違反・不適切申請であり、行政側から排除される対象となります。
無資格代行を前提とした
浅はかな勧誘と致命的な罠
当事務所が実際に実務において、とある助成金利用希望者(企業)から助成金の申請について相談を受けました。お困りごとについて詳しく話を伺ったところ、「教育訓練機関と連絡がとれない、またカリキュラムや契約書などの提供もなく不安だ」とのことでした。当事務所より教育訓練校に対し、依頼を受けた社労士である旨伝え、助成金の申請に必要なカリキュラムの提示などをお願いしたところ、そのスクールの担当者から次のような言葉をかけられたことがあります。

「受講企業様の助成金申請の手続きについても、すべて弊社側で巻き取っています。」
「ちょっと何言ってるか分からない」
どういうことなのか、詳しく伺ったところ、その教育訓練機関自身が受講企業の代わりに助成金申請に必要な書類一式の作成を直接請け負っているということでした。
受講を希望していた企業様にも確認を行い、助成金の計画届が訓練機関にて作成されたものであることが判明。
法的な資格を持たない訓練校が、営業上のアピールや顧客獲得のために安易に申請実務を一括して引き受ける行為は、社会保険労務士法第27条(業務の制限)に真っ向から違反する、明白な無資格代行(非社労士行為)に該当する違法行為です。
GビズID「他人利用」の違法性
「書類の作成や手続きの主導はスクール側で行うが、最後の申請ボタンだけは受講企業のアカウント(GビズID)を使ってもらうから大丈夫」という認識は、現代のデジタル行政では通用しません。GビズIDの管理・運用には、デジタル庁が定める極めて厳格なルールが存在します。
【GビズID利用規約 第10条(禁止事項)より抜粋】
- 第5号:他者になりすます行為
- 第7号:1つのGビズIDアカウントを複数の者が共用する行為
教育訓練校が受講企業からIDやパスワードを預かってログイン操作を行う行為、あるいはスクール側が用意した端末で受講企業にログインさせ、スクール主導で申請データを送信する行為は、上記の「他者へのなりすます行為」や「アカウントの共用」に直接抵触する明確な規約違反です。違反が発覚した場合、受講企業のGビズIDアカウント自体が即座に利用停止措置の対象となります。
訓練校主導の申請は厳禁
雇用関係助成金ポータルのルール
厚生労働省が運用する「雇用関係助成金ポータル」での電子申請においても、訓練校などの第三者が申請を主導・代行することは禁止されています。
主軸となる『雇用関係助成金ポータル利用規約』に基づき、同システムを利用して申請手続きを行えるのは、以下の2者に限定されています。
- 申請を行う事業者(事業主)本人
- 事業主から適法に委託を受けた「社会保険労務士」または「社会保険労務士法人」
社会保険労務士が代理申請を行う場合は、事業主自身のアカウントを直接操作するのではなく、社労士自身のアカウントからシステム内の「代理先設定」機能を用いて事業主と正しく紐付けを行い、正規のルートで申請を行うようシステムが設計されています。
この正規ルートに該当しない「教育訓練校」が、ポータルにアクセスして申請データを構築(添付・入力・書類作成)したり、手続きを主導したりする操作代理行為は、ポータルの利用規約に真っ向から違反する行為であり、行政側から不適切な申請として却下されます。
グレーゾーンという思慮の浅さ
IPアドレスからの申請発覚
「形の上では、受講企業が自分で申請したように見せかけているからバレない」という考えは、現代のデジタル行政においては通用しません。行政(国・事務局)側のチェック能力とシステムによる監視体制は厳格化しています。その象徴が、経済産業省管轄の「事業再構築補助金」で起きた代理申請(無資格代行)排除の動きと、その後に続いた逮捕劇です。
【経済産業省・補助金事務局による公式通知】
公募の審査において「同一のIPアドレスから、異なる複数の事業者による申請が大量に行われている事例」をシステム上で検知し、公式に公表。事務局はこれを規約・法律違反として重く受け止め、該当する申請を軒並み「不採択」や「審査除外」とする厳格なペナルティを科しました。
事業者が自ら申請したのではなく、裏にいる無資格の「申請代行コンサルタント」が自社のPCや端末から、事業者のGビズIDを不正に共有・利用して一括して代理申請を行っていたことがシステム上で看破された事例です。こうした無資格コンサルの中には、実態の伴わない虚偽の事業計画をマニュアル的に作成し、組織的な不正受給を主導していたケースがあり、主導した無資格業者だけでなく、申請した事業者までもが「詐欺罪」や「補助金適正化法違反」で警察に逮捕されています。
また、2026年(令和8年)1月からは「改正行政書士法」が施行され、補助金(経済産業省系)における無資格者による書類作成代行が「いかなる名目であっても厳罰化(両罰規定の導入含む)」されるなど、公的資金を取り巻く無資格代行への包囲網は日を追うごとに強まっています。
厚生労働省の「助成金」においても、労働局による審査や実地調査で「不自然な書類の共通性」や「同一経路・同一IPアドレスからの手続き」は徹底的にマークされています。補助金で起きた一連の摘発劇は、教育訓練校にとっても決して他人事ではない「他山の石」です。
顧問社労士によるパッケージ契約は違法
ここまでのシステム規約や摘発事例を見て、「では、システム的に追えないように対策し、かつ資格を持った本物の社労士を裏に挟めば問題ないだろう」と考える方もいるかもしれません。
顧問契約自体を否定しているわけではありません。教育訓練機関との社労士の範囲内の話であれば価値のあるものといえます。ただ、「訓練校が特定の社労士と顧問契約(または業務提携)を締結し、受講企業と社労士が直接契約を結ばずに、訓練校が窓口となって助成金申請をサポート(パッケージ化)する」という形に問題があります。実務上、非常に多くの教育訓練校が「プロが関与しているから大丈夫」と誤認している極めて危険なスキームですが、これも法律および実務の双方において完全に違法となります。
違法性の確認を怠るとクライアント・教育訓練校・社労士の三者共々、知らない間に踏んでしまった地雷により道連れ自爆となりますので注意してください。
訓練校側における「社会保険労務士法第27条」違反
受講企業に対して助成金申請のサポートを(受講の付帯サービスや特典、パッケージプランなどの名目で)一括して引き受けているのは、あくまで「訓練校(非社労士)」自身です。実際に書類を裏で作成するのが提携社労士であったとしても、資格のない訓練校が窓口となって他人の助成金業務を請け負う(引き受ける)行為そのものが、社会保険労務士法第27条(業務の制限)に直接抵触する違法行為です。
金銭授受や不当な割引に伴う、社労士側の「提携禁止規定」違反
【社会保険労務士法 第23条の2(非社会保険労務士との提携の禁止)】
社会保険労務士は、第27条の規定に違反した者から顧客の紹介を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
特に、以下のような金銭授受や経済的利益の授受が伴うアライアンスは、社会保険労務士法および品位保持の観点から厳格に規制されており、発覚した場合は社労士側が重い懲戒処分(業務停止や失格処分など)の対象となります。
- 有償による顧客のあっせん・キックバック:訓練校が受講企業を社労士に紹介する対価として、社労士から訓練校へ「紹介料」や「バックマージン(キックバック)」を支払う行為、あるいはその逆の行為。
- 不当な金銭の相殺・特別な割引:受講料と助成金申請の手数料を合算してパッケージ化し、訓練校を介することで「特別な割引」を適用して受講企業を誘引する行為。
受講企業と社労士との間に「直接の委任契約」および「独立した適正な報酬の授受」がないねじれた契約関係は、非社労士の違法行為を助長する組織的提携とみなされ、明白な違法行為となります。
「事業主の真意確認」と労務実態確認の欠如
【厚生労働省・雇用関係助成金支給要領の原則】
社労士が代理申請を行う際、「事業主の真意に基づく委託であること」および「法定帳簿(出勤簿、賃金台帳など)を通じた労務実態の直接確認」を大原則としています。
訓練校が間に介在し、社労士が受講企業の経営者や労務担当者と一度も直接面談やヒアリングを行わずに書類を作成・申請した場合、万が一、訓練校側の説明不足や誤解によって実態と異なる書類が提出されれば、それは即座に「不正受給」の対象となります。また、労働局からの追加照会や実地調査が入った際、直接のやり取りがない社労士では受講企業の労務実態を適切に説明できず、申請は却下(不支給)されます。
「グレーゾーン」ではない
遡及返還リスクという時限爆弾
「行政の手が回っていないから、どうせバレない」「現に今まで問題なく申請が通っている」という確信犯的な認識は、国が講じた新たな強硬措置によって完全に破綻しました。
現実に、各地方労働局では支給要領の改正に伴い、すでに申請を完了しているものの未だ支給・不支給の決定が行われていない「すべての申請案件」を対象として、過去に遡及して追加書類の提出を強制する実務を開始しています。
また、コロナ禍における雇用調整助成金や休業支援金などを思い出してください。あの時の助成金や支援金もコロナ禍が去った後、過去に遡って一斉調査が行われ、それは今もなお続いています。
今捕まっていないのは、決して「グレーゾーン(適法)」だからではありません。単に審査の過程において未だ発覚していないだけの「未摘発のブラック」に過ぎず、数年後に発生する巨額の遡及返還リスクという名の時限爆弾を、自らスクールの床下に埋め込んでいるのと同じです。
「バレないから大丈夫」と高をくくっていた確信犯的な「無資格代行スキーム」は、この遡及調査によって強制的に炙り出され、悲惨な結末を辿ることになります。
教育訓練校が守るべき「正しい助成金活用のあり方」
助成金は、企業の成長とスクールの集客を両立させる優れた制度です。だからこそ、スクールは「合法かつ健全な運用」を徹底し、それを競合との最大の差別化(コンプライアンスの強み)にする必要があります。スクールが取るべき正しい運用の形は、以下の3点に集約されます。
自社で書類作成や申請手続きの代行・操作を行わない
スクールとしての本来の役割(質の高いカリキュラムの提供、出席簿や受講証明書といった「スクール側が発行すべき公的書類」の正確な作成・提供)に徹してください。
受講企業と社労士との間で「直接の委任契約」を締結させる
受講企業に対して社労士を紹介する場合は、訓練校を契約の間に挟む「パッケージ化」を決して行わず、必ず「受講企業」と「社会保険労務士」との間で直接、適正な料金による委任契約を締結させてください。また、紹介に伴うキックバックや不当な割引の排除を徹底してください。この直接契約の形を取ることのみが適法な紹介・サポートのあり方です。
受講企業自身による「自社申請(内製化)」のサポートに留める
企業自身が、あるいはその企業の顧問社労士が申請を行うケースにおいては、スクールは申請に必要なコース概要や時間割などの「情報提供」を適切に行うサポートに留め、申請システム(雇用関係助成金ポータル等)の操作や書類作成自体に直接関与しないよう一線を画すことが重要です。
コンプライアンスと訓練校としての価値
「他のスクールもやっているから」「これまで指摘されなかったから」という言い訳は、法令遵守の世界では一切通用しません。GビズID利用規約や雇用関係助成金ポータル利用規約、そして補助金におけるIPアドレスの監視と摘発に見られるように、国は「公的資金の不正・不適切利用」に対して、AIなどのテクノロジーと法改正の両面から極めて厳しい目を向けています。
教育を提供する「訓練校」だからこそ、どの事業者よりも襟を正し、高いコンプライアンス意識(訓練校の価値)を持つべきです。目先の集客のために違法な無資格代行や規約違反の他人利用、不適切な社労士とのパッケージ契約に頼るのではなく、信頼できる社労士(価値ある社労士)を正しく受講企業に紹介し、合法で安心な「助成金活用モデル」を提示すること。これこそが、受講企業(価値あるクライアント)から選ばれ続け、長期的にスクールを発展させる唯一無二の王道なのです。
助成金を活用した研修の導入や、スクール運営におけるコンプライアンス・アライアンスのご相談は、社会保険労務士である当事務所へお気軽にお問い合わせください。
投稿者プロフィール

- ドローン免許を保有の社労士として、ドローンをビジネスに活用されたい企業様向けに、社員にドローンの国家資格取得を始めとする人材育成に活用できる助成金や、機体購入やシステム導入などに活用できる助成金のご提案や申請手続きのサポートを行っております。
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